1-3 人工知能分野の問題
みかん
今回はG検定1章の3節「人工知能分野の問題」を解説します。コンピュータで現実問題を解く際に直面する課題や、AIの限界・本質について見ていきましょう。
1. 人工知能分野の問題
1.1 トイ・プロブレム(おもちゃの問題)
みかん
現実世界の問題をいきなりコンピュータで解こうとしても、複雑すぎて取り扱うことが難しいのが普通です。
現実世界の問題は複雑すぎてコンピュータで取り扱うことが難しい
あいで
つまり、AIに「渋滞を予測して」とか「料理作って」っていきなり言っても無理ってことですね。考えることが多すぎますもんね。
みかん
そこでコンピュータで扱えるように、本質を損なわない程度に問題を簡略化したものを「トイ・プロブレム(おもちゃの問題)」と呼びます。
トイ・プロブレム
現実の複雑な問題を、本質を残したまま単純化したもの。アルゴリズムの性能比較にも使われる。
問題を簡略化したものがトイ・プロブレム(おもちゃの問題)
あいで
問題を一旦シンプルにしてからAIに解かせる作戦ですね。テスト勉強で、いきなり応用問題じゃなくて基礎問題から始めるのと似てますね。
みかん
たとえば掃除ロボットの問題。現実の動きは連続的で複雑ですが、トイ・プロブレムでは「Room1にいるかRoom2にいるか」の2択に簡略化します。
簡略化により問題の本質の理解、アルゴリズムの性能比較ができる
みかん
第1次AIブームの時代、迷路・パズル・チェス・将棋などでAIは大きな成功を収めました。
あいで
あ、でもそれって全部ルールが決まったゲームですよね。「部屋を片付けて」みたいな曖昧な現実問題はできなかったってことか…。
みかん
その通りです。これらは全てトイ・プロブレム。当時の人工知能ではそのような簡単な問題しか解けず、複雑な現実世界の問題は解けないことが次第に明らかになっていきました。
限定された状況の問題しか解けず、現実世界の問題は解けないことが明らかに
1.2 フレーム問題
みかん
次にAI研究最大の難問とも言われる「フレーム問題」を解説します
みかん
これは「今しようとしていることに関係のあることがらだけを選び出すことが、実は非常に難しい」という問題です。
フレーム問題
行動に関係のある情報だけを素早く選び出すことが、コンピュータには極めて難しいという問題。AI研究最大の難問。
1969年マッカーシーとヘイズが提唱。未だに本質的な解決はされていないAI最大の難問
あいで
うーん、ちょっと抽象的でわかりにくいですね。「関係あること」を選ぶのが難しいってどういうことなんでしょう?
みかん
哲学者のダニエル・デネットが分かりやすい例え話を作っています。洞窟の中の台車の上にバッテリーがあり、その横には時限爆弾が仕掛けられています。
みかん
ロボット1号はバッテリーを持ち出すことに成功します。でも爆弾も一緒に運び出してしまうことを知らなかったので、爆発してしまいました。
あいで
バッテリーを取ることだけ考えて、「爆弾も付いてくる」って気づかなかったんですね。じゃあ次は副作用も考えるように直せばいいですよね?
みかん
ロボット2号は「行動の結果、副次的に何が起きるかを考慮する」よう改良されました。ところが「天井が落ちないか」「壁の色が変わらないか」など無限に考え続け、計算に時間がかかり時間切れで爆発してしまいました。
あいで
え、考えすぎて爆発…。じゃあ「目的に関係ないことは無視する」ようにすればいいんじゃないですか?
みかん
それがロボット3号です。「目的遂行前に関係ないことは考慮しない」よう改良されました。でも今度は「関係あることとないことを仕分ける作業」に没頭してしまい、洞窟に入る前にフリーズしてしまいました。
デネットの例:1号→爆弾ごと爆発 / 2号→無限に考えて爆発 / 3号→仕分けに没頭しフリーズ
あいで
どう改良してもダメじゃないですか…!でもよく考えたら、人間って「これは関係ない」って瞬時に判断してますよね。すごく自然に。
みかん
まさにその通りです。人間はあらゆる状況について無限に考えてフリーズすることなく、この問題をごく当たり前に処理しています。AIがフレーム問題を解決しているかのようにふるまえるようにすることが研究目標の一つなんです。
人間のようにフレーム問題を解決しているかのようにふるまえることが研究目標
1.3 チューリングテスト
みかん
次に「AIができたかをどう判定するか」、チューリングテストを解説します
みかん
別の場所にいる人間がコンピュータと会話をし、相手がコンピュータだと見抜けなければコンピュータには知能があるとするものです。
チューリングテスト
人間がコンピュータと会話して、相手をコンピュータと見抜けなければ「知能がある」と判定する方法。
イギリスの数学者アラン・チューリングが提唱した知能判定テスト
あいで
なるほど、「中身は分からないけど、外から見て人間っぽければOK」っていう発想ですね。会話の正体当てゲームみたいな感じですね。
みかん
知能を内部のメカニズムから判定するのは困難なため、外から観察できる行動から判断せざるを得ないという立場を取っています。
内部メカニズムではなく、外から観察できる行動から判断するアプローチ
みかん
1966年にジョセフ・ワイゼンバウムが開発した、精神科セラピストを演じるプログラム「イライザ(ELIZA)」は、本物だと信じる人も現れるほどでした。
1966年セラピスト役ELIZA / 1991年〜合格を目指すローブナーコンテスト
あいで
1966年でもう「本物だと信じる人」がいたんですか!?プログラムなのにそこまでリアルだったとは…。
みかん
1991年以降、チューリングテスト合格を目指すローブナーコンテストが毎年開催されていますが、現在も完全にパスするレベルのソフトウェアは現れていません。
あいで
ChatGPTを触ってると「これ人間じゃない?」って思う瞬間ありますもんね。合格まであと少し…って感じがします。
1.4 強いAIと弱いAI
みかん
次に「強いAI」と「弱いAI」の違いを解説します
みかん
「強いAI」は、適切にプログラムされたコンピュータは人間と同じ意味で心を持ち、プログラム自体が人間の認知の説明になると考える立場です。
1980年哲学者ジョン・サールが論文で提示したAIの区分
みかん
「弱いAI」は、コンピュータは人間の心を持つ必要はなく、人間の知的活動と同じような問題解決ができる便利な道具であればよいと考える立場です。
弱いAI:心は不要、人間の知的活動と同じ問題解決ができる有用な道具であればよい
あいで
なるほど、「AIに本物の心が宿るのか」それとも「ただの便利な道具なのか」っていう、けっこう哲学的な議論ですね。
みかん
ジョン・サールは「中国語の部屋」という思考実験を提案し、強いAIは実現不可能だと主張しました。英語しか分からない人が部屋に閉じ込められ、完璧なマニュアルに従って記号操作を行い中国語の質問に答えたとしても、それは意味を理解しているわけではない、という議論です。
中国語の部屋
ジョン・サールの思考実験。マニュアル通りに正しく答えられても、本当に「理解」しているとは言えない。
中国語の部屋:記号操作を行っているだけで意味を理解していないことを示す思考実験
あいで
つまり、「正しい答えが返ってきても、それは本当に理解してるとは限らない」ってことですよね。チューリングテストに合格しても、本物の知能とは限らないっていう反論なんですね。
みかん
数学者のロジャー・ペンローズも、意識は量子効果が絡んでいるため、既存のコンピュータでは強いAIは実現できないと主張しています。
ペンローズ:意識は量子効果が絡んでいるため既存のコンピュータでは強いAIは実現できない
あいで
今のChatGPTも「中国語の部屋」状態かもしれないってことですね…。意味を分かっているように見えるだけ、っていう。深い話だ。
1.5 シンボルグラウンディング問題(記号接地問題)
みかん
次にシンボルグラウンディング問題を解説します
みかん
1990年にスティーブン・ハルナッドにより議論された、記号(シンボル)とその対象がいかにして結び付くかという問題で、人工知能の難問とされています。
シンボルグラウンディング問題
言葉(記号)とその意味・実体がどうやって結び付くかという問題。AIの根本的な難問。
1990年スティーブン・ハルナッドが議論。記号とその対象がいかにして結び付くかという問題
あいで
記号と対象が結び付く…?正直、ちょっと意味が分からないです。具体例で教えてもらえますか?
みかん
人間の場合、「シマ」や「ウマ」の意味やイメージを理解しているため、初めて本物の「シマウマ」を見ても認識できます。
人間は「シマ」「ウマ」の意味が分かっているため、初めてシマウマを見ても認識できる
あいで
あ、「シマシマの模様」と「ウマ」を知ってるから、初めて見ても合体させて理解できるってことですね!
みかん
しかしコンピュータにとっては「シマウマ」という文字はただの記号の羅列にすぎず、言葉の意味や実体が結び付いていません。
コンピュータは「シマウマ」という記号の意味が分かっていないため実物と結び付けられない
あいで
なるほど、コンピュータにとっては「シマウマ」も「abcde」も同じ文字列…。実物のイメージと結び付いていないんですね。
1.6 身体性
みかん
次にシンボルグラウンディング問題に関連する「身体性」を解説します
みかん
人間は身体のすみずみに張り巡らされた神経系を通して現実世界から膨大で複合的な情報を知覚し、その感覚と記号を結び付けて世界を認識しています。
身体性
知能が成立するためには、外界と相互作用できる身体が必要だという考え方。
知能が成立するためには身体が不可欠であるという考え方
あいで
つまり、私たちが「リンゴ」を分かるのは、見た目だけじゃなくて、触った感触・かじった味・甘い香りも全部知ってるからってことですね。
みかん
まさにその通りです。例えば「コップ」を本当の意味で理解するには、実際に手で触れて冷たさを感じたり、落として割れる経験をしたりする身体を通した感覚が必要なんです。
外界と相互作用できる身体がないと、概念はとらえきれない
あいで
画像や文章でコップを学習しても、「冷たい」「割れる」っていう体感はないですもんね。だから本当の意味では分からない…つまり身体がないAIは概念をとらえきれないってことか。
1.7 知識獲得のボトルネック
みかん
最後に「知識獲得のボトルネック」を、機械翻訳を例に解説します
みかん
例えば「He saw a woman in the garden with a telescope.」という英文。人間であれば経験に基づく一般常識から「彼は望遠鏡で、庭にいる女性を見た」と自然に解釈します。
機械翻訳が難しい最大の理由:コンピュータが「意味」を理解していない
あいで
なるほど、私たちは普段から「望遠鏡って覗くものだよね」「庭は女の人がいそう」みたいな経験を無意識に使って判断してるんですね。
みかん
しかし文法的には一意に定まらないため、統計的機械翻訳では「彼は望遠鏡で、庭で女性を見た」という不自然な訳になることがあります。
あいで
じゃあAIに常識を全部教えればいいんじゃないですか?「望遠鏡は覗くもの」とか…。
みかん
それが大変なんです。一般常識をすべてコンピュータに教え込むことは膨大すぎて事実上不可能です。このようにコンピュータが知識を獲得することの難しさを「知識獲得のボトルネック」と呼びます。
知識獲得のボトルネック
人間が持つ膨大な一般常識を、コンピュータに取り込むことの限界。手動入力には根本的な壁がある。
膨大な一般常識をすべて教え込むことは事実上不可能=知識獲得のボトルネック
あいで
確かに「コップは割れる」「冬は寒い」みたいなこと、無限にありますもんね。それを全部入力するのは無理ゲーですね…。
みかん
現在ではディープラーニングを応用したニューラル機械翻訳や、文脈を理解して自然な文章を生成する大規模言語モデル(LLM)が登場したことで、このボトルネックを乗り越えることが期待されています。
ディープラーニング・ニューラル機械翻訳・大規模言語モデル(LLM)でボトルネックの克服が進む
あいで
AIが大量のデータから自分で学習することで、「常識を全部手で入れなくてもよくなった」んですね。技術で問題を迂回するアプローチって感じですね。
まとめ
みかん
今回は人工知能分野の7つの問題を解説しました。おさらいしましょう!
みかん
1つ目、トイ・プロブレム。現実の複雑な問題を本質を残して単純化したもの。第1次AIブームはゲームや迷路は解けても現実には対応できなかった。
トイ・プロブレム:本質を残して単純化。現実には対応できなかった
みかん
2つ目、フレーム問題。1969年マッカーシーとヘイズが提唱。関係ある情報だけを素早く選び出せないという問題で、ロボット1・2・3号の例が有名。今もAI最大の難問。
フレーム問題:関係ある情報だけを選び出せない。AI最大の難問
みかん
3つ目、チューリングテスト。会話で人間と区別できなければ「知能あり」と判定する方法。1966年のELIZAや1991年からのローブナーコンテストが有名。
チューリングテスト:見抜けなければ知能あり。ELIZA・ローブナーコンテスト
みかん
4つ目、強いAIと弱いAI。1980年ジョン・サールが提示。強いAIは「人間と同じ心を持つ」、弱いAIは「便利な道具」。中国語の部屋はその反論として有名な思考実験。
強いAI:心を持つ / 弱いAI:便利な道具 / 中国語の部屋
みかん
5つ目、シンボルグラウンディング問題。1990年ハルナッド提起。記号と意味の結び付けができないというAIの根本問題。
シンボルグラウンディング問題:記号と意味の結び付けができない
みかん
6つ目、身体性。知能成立には身体が不可欠という考え方。身体を通じた経験がないと概念を本当には理解できない。
身体性:身体を通じた経験がないと概念を理解できない
みかん
7つ目、知識獲得のボトルネック。膨大な一般常識をAIに入れることの限界。ディープラーニングとニューラル機械翻訳・大規模言語モデルの登場で克服が進んでいます。
知識獲得のボトルネック:DL・ニューラル翻訳・LLMで克服が進む
みかん
ということで今回は人工知能分野の問題について解説しました。G検定ではこれらのキーワードと内容をしっかり覚えておきましょう!
あいで
このチャンネルではITに関することを発信しています。
あいで
よければチャンネル登録、高評価よろしくお願い致します。